近年申請者らは、若年性歯周炎起因菌であるAggregatibacter actinomycetemcomitansの細胞膜画分から呼吸鎖中のキノールを生理的基質として用いる新規ペルオキシダーゼを発見し、キノールペルオキシダーゼ(QPO)と名付けた。QPOはヘムcを三つ持つペルオキシダーゼとして初めての例であり、真正細菌における膜結合型ペルオキシダーゼとしても初めての例である。したがって、QPOに関する研究は、生命科学的にも、医学歯学的にも大変意義深いものと考えられる。 本研究では、QPOが本菌にとってどのような生理的機能を有するかについて、QPO変異株を用いて検討をおこなった。その結果、QPO変異株では抗DNP抗体で検出される酸化修飾タンパク質量の増加、アルカリ変性ゲルによって検出される酸化DNAの量の増加、そしてカタラーゼ(KatA)活性の亢進を認めた。これらの結果により、QPO変異株は酸化ストレス下にあることを結論づけることができた。しかしながら過酸化脂質の量は亢進しないことから、本菌に於ける過酸化脂質は、Thioperoxidaseのような他の抗酸化酵素によって処理されているものと予想された。また、QPO変異株は、本菌の主な病原因子である白血球毒、ロイコトキシンを分泌することができないという特筆すべき表現型を有することが明らかとなった。このことはQPOが本菌の病態発現に大きく関与していることを示唆するものであった。 申請者はさらに、QPO特異的な阻害剤の検討を行い、非常に低濃度でQPO活性を強く阻害する阻害剤(アスコフラノン)を見いだした。続いて、アスコフラノンが濃度依存性に本菌のロイコトキシンの分泌を抑えることを認めた。これらの事実から、QPOとアスコフラノンを新機軸とした若年性歯周炎の新規な予防・治療法の開発に大きく貢献できるものと考えられた。
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