咀運嚼動系の伸張反射回路には、他の運動系に見られない特徴がある。ヒトの筋紡錘1個に含まれる錘内筋線維数は、四肢筋で2〜3本前後であるのに対し、咬筋では最大36本に及ぶと報告されており、咬筋筋収縮制御におけるγ系の関与の大きさを直接的に示している。また、咬筋筋紡錘を支配する単一のGla線維は、個々のα運動ニューロン(MN)に対し数個のシナプス入力を与えるだけで、これは四肢筋の1/3から1/5である。これらを合わせて考えると、咬筋の筋固有感覚が、αMNに対し、空間的加重よりもむしろ時間的加重を与えるよう特化されている可能性を示しており、咀嚼運動制御におけるγ系の重要性の大きさを示していると言える。こうした特異性により、精緻な咬合力調節が可能となっていると考えられる。その可能性の実証には、γMNの興奮特性や運動単位動員制御における役割の解明に先立ち、αMNの動員機構の解明が不可欠である。最近当教室の研究により、前脳基底部コリン作動性(BFC)ニューロンにおいて、膜興奮性に多大な影響を与える漏洩K^-チャネルが、細胞外液pHや一酸化窒素(NO)-cGMP-PKG系によって調節されることが明らかになり、そのチャネルの本体はTASKである可能性が示された。三叉神経MNにはTASK1/3が発現していることや、三叉神経MNに投射する網様体ニューロンにNO合成酵素を含むものがあること等から、閉口筋αMNの興奮性調節にTASKチャネルが重要な役割を果たしていることが想定された。そこで、ラット脳幹薄切標本上の閉口筋αMNに対しホールセルパッチクランプを形成し、細胞外液pHの変化や、NO供与体の細胞外灌流投与の影響を調べたところ、BECニューロン同様、膜電位と入力抵抗の変動が認められた。このことから、TASKチャネルが閉口筋αMNの興奮性を調節し、閉口筋運動単位動員に関与している可能性が示唆された。
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