研究概要 |
本研究の目的は「唾液分泌機構における新規分子PRIPの役割を解明すること」である。すなわち我々の研究室で見出し、細胞内Ca^<2+>シグナリングの修飾や中枢神経系において抑制性シグナル伝達の一翼を担うGABA_A受容体の機能修飾という役割を明らにしたPRIP分子の新たな生理的役割を唾液腺の分泌反応をモデルとして解明しようとするものであった。実験は博士課程大学院生の高靖と共に行った。結果、(1)個体レベルでの実験 : ピロカルピン刺激による唾液分泌量を測定したところ、PRIPノックアウトマウスの方が野生型と比較して僅かに唾液分泌量が多い傾向にあったが、統計的有意差を認めるには至らなかった。このことからPRIPは唾液腺において唾液の水・電解質成分分泌を調節するイノシトール三リン酸・細胞内Ca^<2+>シグナル経路の制御への関与が少ないことが示唆された。より詳細な解析は個体レベルで困難であり、単離腺房等を用いた系の確立が必要である。(2)マウスより急性単離した唾液腺細胞を用いて細胞刺激に伴うタンパク質リン酸化をウェスタンブロット法によって調べたが検索した範囲ではPRIPノックアウトマウスと野生型との間に差を認めなかった。一方、唾液のタンパク質成分等は分泌顆粒を介して分泌されるがこの機構におけるPRIPの作用を、汎用されるラット副腎髄質褐色細胞腫由来細胞株PC12からのノルアドレナリン(NA)分泌を検出する系で調べたところ、PRIPはNAの分泌に抑制的に働いた。一つの機序としてPRIPがそのプレックストリン相同(PH)ドメインを介した細胞膜脂質PtdIns(4, 5)P_2との結合により、分泌顆粒の形質膜との融合過程を阻害することを明らかにした。本研究結果は開口分泌という普遍的な細胞機能の1つに新しい分子の存在と役割を認知させた点で学術的に意義深い。PRIPはPHドメイン以外にも複数の特徴的ドメインを有しており、今後はさらにそれら全てを含めた分泌過程の修飾機序の解明を目指す。
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