本研究ではヒト間葉系幹細胞(hMSC)が分泌する機能未知のシステインリッチペプチドSCRG1に着目し、hMSCの分化や増殖におけるSCRG1の役割を解析した。前年度までに、SCRG1の性状について詳細に検討し、さらにSCRG1がIntegrinおよびIntegrinの細胞内シグナル伝達因子であるFocal adhesion kinaseのリン酸化シグナルを介して、hMSCの骨分化を抑制する可能性を示した。本年度は、SCRG1がhMSCの組織内浸潤を促進する実験結果が得られた。すなわち、基底膜を模倣したマトリゲルインベージョンチャンバーの上層にhMSCを播種し、下層にSCRG1を添加すると、hMSCがマトリゲルを分解して下層側へと移動した。これまでにhMSCの浸潤や遊走は、CXC chemokine receptor4やIntegrin beta 1によって制御されることが明らかになっている。SCRG1はその分子中に多くのシステイン残基を有する。このような特徴は様々なサイトカインやケモカインに共通した特徴であり、SCRG1がhMSCの骨分化のみならず、細胞の浸潤や遊走にも関与している可能性が強く示唆された。しかしながら、本研究においてSCRG1の受容体を同定することはできず、hMSCにおけるSCRG1の役割も不明なままである。今後、SCRG1受容体の同定およびSCRG1がどのような性質の細胞を浸潤させるのかを明らかにし、hMSCにおけるSCRG1の役割と分泌の意義を明確にしたい。
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