本研究は、超音波画像診断装置ならびに圧力センサーシートを用い、咀嚼時における舌形態の描出と口蓋に対する舌圧測定を行った。 対象は、顎口腔系に異常を認めない者3名(男性1名、女性2名、平均年齢26.3歳)である。咀嚼運動の被験食品として、ゼリーを用いた。 舌形態の描出は、対象者にフランクフルト平面が床と水平となるように垂直座位をとらせ、超音波探触子の正中がオトガイ正中部となるように顎下部に当てて行った。 舌圧センサーシートは、左右上顎第一大臼歯口蓋側歯肉部および口蓋正中部に貼付し、咀嚼時の作業側および平衡側の舌圧計測を行った。 被験食品の咀嚼は、習慣性咀嚼側で行い、咀嚼開始後の安定した8ストロークを咀嚼前期、嚥下前の8ストロークを咀嚼後期として両者を比較した。 描出された画像より舌形態を比較したところ、咀嚼前期のほうが咀嚼後期に比べて舌側縁最大隆起部の位置は、水平方向に大きく、垂直方向に小さい距離の移動が認められた。 舌圧計測結果は、作業側と平衡側との舌圧を比較すると、作業側のほうが大きい値を示した。また、咀嚼前期(平均7.8kPa)より咀嚼後期(平均11.4kPa)の方が大きな値を示す傾向にあった。 以上の結果より咀嚼時の舌動態は、咀嚼前期では水平方向に、咀嚼後期では垂直方向に運動していることが示唆された。捕食した後、舌は食物を臼歯部に移送するために垂直方向より左右方向に大きく動き、咀嚼後期では粉砕された食物をまとめるため、垂直方向の動きが大きくなることが推察された。
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