研究概要 |
ケモカインCXCL14/BRAKは,多くの癌細胞で発現低下されていることが報告されている。また,舌癌由来細胞のマウス皮下への造腫瘍性を抑制することから,癌治療(バイオセラピー)に用いうる有望な新規分子と考えられるが,その生理機能については不明な点が多い。本研究では,舌癌由来細胞HSC-3細胞を用いて,腫瘍形成抑制のメカニズムの解明として,特に癌細胞の浸潤性増殖に対するBRAKの役割について解析することを目的とした。癌細胞の浸潤性増殖には,マトリックスメタロプロテアーゼによる3次元的な細胞外環境の分解とそれに伴う細胞遊走能の獲得による増殖が必要であり,BRAKによって抑制されることが予想された。そこで平成19年度は,舌癌由来細胞株HSC-3細胞を用いて,1)マトリゲル上の細胞遊走,細胞浸潤,およびネットワーク形成について,2)マトリゲル上の細胞遊走能に必須と考えられるMMP-9の発現についてBRAKが関与するかについて検討した。HSC-3細胞は,マトリゲル上で細胞遊走させると,鎖状に連結したネットワークを形成し,細胞がマトリゲル表面を分解したような溝が観察され,これらはMMP阻害剤GM6001によって阻害された。また,BRAK強制発現細胞ではネットワーク形成および,マトリゲルへの細胞浸潤も顕著に阻害された。さらに,MMP-9の分泌量をザイモグラフィで,MMP-9のmRNA量をRT-PCR法で測定したところ,BRAK強制発現細胞ではどちらも低下していることが認められた。このBRAK強制発現細胞をRNA干渉法によって処理し,再度BRAKの発現量を低下させると,MMP-9の分泌量が顕著に回復した。以上の結果から,BRAK強制発現によるマトリゲル上のネットワーク形成および細胞遊走の抑制には,BRAKによるMMP-9合成能およびその分泌能の低下が関与していることが示唆された。
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