ケモカインCXCL14/BRAKは、生理機能は不明であるが、口腔上皮癌においては顕著な発現低下が認められ、また、舌癌由来細胞のBRAK高発現株はその造腫瘍性が抑制されたことから、癌治療(バイオセラピー)に用いうる有用な分子と考えられた。本研究では、ヒト舌癌由来細胞HSC-3を用いて、腫瘍形成抑制のメカニズムの解明として、浸潤性増殖に対するBRAKの役割について解析することを目的とした。昨年度は、ヒト舌癌由来細胞(HSC-3)のマトリゲル上での細胞遊走について、その遅延する要因の一つとしてMMP-9の発現低下を見出した。そして、MMP-9の発現低下の原因は、細胞接着の増強による細胞遊走の抑制を介すると考えられたので、本年度は、接着の増強について解析することを目的とした。その結果、BRAK高発現株においては、コラーゲン特異的な細胞接着の増強、長い接着斑形成が観察され、予想通り安定した接着の形成が明らかとなった。次に、そのメカニズムを明らかにするために、リコンビナントBRAKにより活性化する分子群のうち、接着増強に関与する分子の同定を試みた。その結果、低分子G-タンパク質のRap1を同定し、接着斑形成への関与を確かめた。さらに、BRAKを添加した長期培養によって、長い接着斑形成を再現することが出来たことから、パラクライン刺激でも接着斑形成に同様に効果があることが示唆された。興味深いことに、EGF刺激では形成する接着斑は短小化傾向にあり、BRAK刺激と相反する結果が得られた。これらの結果から、舌癌由来細胞HSC-3では、BRAK-Rapl経路が絶たれているために、本来持っていた強い接着が弱まり、EGFによる遊走浸潤が起きやすい性質へ変化するという分子メカニズムが示唆された。また、本研究によってBRAKにより制御される分子に、MMP-9、接着斑キナーゼ、Rap1を同定し、これらの分子はBRAKに加えて、口腔癌治療への標的分子の有望な候補と考えられる。
|