腫瘍細胞をラットの脛骨骨髄内に直接接種することで癌性骨痛モデルを作製した。行動学的な視点から、疼痛に伴う左右への体重負荷の変動、後肢の挙上反応、侵害性の熱あるいは機械刺激に対する痛覚過敏反応を評価することにより、疼痛の数値化を試みた。痛みに対する一定の評価は癌患者においても困難であるが、in vitroの細胞を使った実験系では疼痛を反映しきれないため、動物モデルの樹立は非常に有用である。また、骨膜ならびに骨髄内における痛覚神経線維の分布をマーカーとなるCGRPの免疫染色により確認し、後根神経節でのCGRPと酸感受性受容体(ASICs: Acid-sensing ion channelsあるいはTRPVl: Transient receptor potential vanilloidsubtype l)が同一神経細胞内に共局在していることを確認した。酸は、炎症において良く知られ七いるように発痛物質の一つであり、酸感受性受容体を介して知覚神経を興奮させ疼痛を引き起こす。骨転移巣は、腫瘍細胞や破骨細胞により酸性状態を呈していると考えられることから、癌性骨痛の発生における酸感受性受容体の関与が推察された。また、腫瘍増殖に伴い、後根神経節において神経損傷マーカーATF3の発現が増加し、脊髄後角におけるミクログリアの活性化も観察された。このモデルに対し、8Gyあるいは20Gyの放射線照射を行い、疼痛行動の変化および後根神経節・脊髄における疼痛関連分子の発現について検討中である。培養細胞での検討結果から、8Gyの照射は腫瘍細胞の増殖あるいは性質に影響を与えなかった。照射に伴う、炎症細胞や神経細胞の動態を検討することで、放射線照射による疼痛緩和メカニズムの解明が期待される。
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