癌性疼痛モデルの行動学的評価法を確立するため、動物モデルを用いて検討したところ、溶骨性の特徴を持つ腫瘍では、脛骨転移モデルにおいて患側後肢の自発痛ならびに機械刺激性痛覚過敏を経時的に検出できることが示された。低線量の放射線照射を行い、機械刺激に対する疼痛行動を計測したが、明瞭な緩和効果が認められなかった。その要因として、疼痛の出現する病変後期ステージでは、著しい腫瘍増殖とそれに伴う病的骨折が生じており、緩和効果の検出限界を超えた状態であったことが推察される。今後、病変の進展をコントロールし、照射のタイミングについてもさらに検討する必要があると考えられた。 一方、担癌動物の神経系の分子変化を解析したところ、患側の後根神経節においてASIC3のmRNA発現増加が認められており、疼痛の発生における「酸性環境」の関与が示唆された。そこでさらに、成熟ラットの後根神経節より初代神経細胞の培養を行い、酸刺激の影響について検討を試みた。その結果、培養神経細胞への酸刺激は、転写因子CREBの活性化を介してCGRPの発現を制御することや、ASIC3mRNAの発現増加を引き起こすことが分かった。また、酸感受性受容体の阻害剤を用いた検討では、CREBの活性化やCGRPの発現が抑制されたことから、癌性疼痛におけるこれら受容体の重要性が確認できた。放射線照射や疼痛緩和薬の効果を考える上で、これらの受容体の発現ならびに機能の変化を捉えることは、新たな緩和医療の開発において有用な知見となることが期待される。
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