象牙質知覚過敏症において、動水力学説(歯の根面の露出等により、象牙細管の入り口が開口し、外部刺激により象牙細管内溶液が動くことにより、歯髄や内層象牙質に存在する自由神経終末を機械的に刺激し、痛みを誘導する説)が現在最も広く受け入れられているが、この説だけでは十分に説明できない部分もまだ残っている。最近では、象牙芽細胞自身が感覚受容細胞としての機能を持ち、外部からの刺激を痛覚神経線維に伝えるという象牙芽細胞受容器説が徐々に研究されつつある。求心性の感覚神経には6つの温度感受性イオンチャンネルがあり、それらは異なる温度帯を閾値としている。熱刺激を感受するものではVR-1(>43℃)、冷刺激を感受するものではTRPM8(<25℃)があげられる。われわれは、これまでにVR-1がヒト歯髄細胞において発現すること、また温熱刺激によりVR-1が活性化し歯髄炎を増悪する可能性があること、冷刺激感受性受容体であるTRPM8 mRNAが、ヒト歯髄細胞およびラット象牙芽細胞(OLC)において発現すること(RT-PCR法)、また、ヒト歯髄細胞およびOLCにおいてTRPM8の発現をタンパクレベルにて確認した。さらに、ラット歯髄の横断薄切標本を用いた実験により、歯髄組織外層の象牙芽細胞において、DMP-1、DSPおよびTRPM8の発現を確認した(免疫染色法)。今年度は、ラットの歯牙の縦断薄切切片を免疫染色し、象牙芽細胞層において、TRPM8、VR-1の発現をタンパクレベルにて確認した。以上の結果より、温度感受性受容体は象牙芽細胞において発現しており、歯における温度刺激の引き起こす痛み、知覚過敏症において何らかの役割を担っている可能性があると考えられる。今後は、TRPM8の機能についても解析を行っていく予定である。
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