ラット歯髄より樹立した象牙芽細胞様細胞株(KN-3細胞)をヒアルロン酸スポンジおよびコラーゲンスポンジに播種後一定期間培養し、それぞれのスポンジからプレート底部に漏出した細胞数をカウントしスポンジの細胞保持力を検討するとともに、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察を行った。また、KN-3細胞を各スポンジに播種・培養後にみられる炎症性メディエーターの発現を測定した。次に、9週齢ラットの上顎第一臼歯咬合面から生活歯髄切断を行い、断髄面を次亜塩素酸ナトリウム、オキシドール、滅菌生理食塩水で洗浄・止血後、ヒアルロン酸スポンジあるいはコラーゲンスポンジを窩洞に充填・封鎖し、一定期間経過後の歯髄組織の変化をヘマトキシリンーエオシン染色により組織学的に観察するとともに、充填部における炎症細胞数を顕微鏡下で測定した。実験の結果、SEM像からコラーゲンスポンジはヒアルロン酸スポンジよりも多孔質な構造を有していることが確認された。KN-3細胞を各スポンジ内で培養したところ、両スポンジともKN-3細胞は良好に付着していたが、コラーゲンスポンジでは紡錘形で偽足を出したKN-3細胞が観察されたのに対し、ヒアルロン酸スポンジでは球型のまま付着しているKN-3細胞が観察された。細胞播種後、培養期間中にスポンジから漏出し培養プレート底部に接着している細胞数はコラーゲンスポンジで有意に多く、また炎症性メディエーター誘導も観察された。 次にラット上顎第一臼歯生活歯髄切断部に各スポンジを充填し組織変化を観察した。術後1週では、コラーゲンスポンジ群においてスポンジ残存と好中球を中心とした多数の顆粒球侵入が観察された。一方、ヒアルロン酸スポンジ群では炎症反応はほとんど認められず、スポンジは吸収され歯髄細胞および血管侵入の多い残存歯髄と類似した組織構造が観察された。術後3週では、コラーゲンスポンジ群においてスポンジ残存と炎症反応は持続しており歯髄細胞や血管侵入も少なかった。一方、ヒアルロン酸スポンジ群では術後1週の状態が持続していた。充填された各スポンジにおける炎症細胞数は、コラーゲンスポンジ群がヒアルロン酸スポンジ群の約1.6倍を示していた。以上の結果より、ヒアルロン酸スポンジは歯髄細胞保持力を有しているとともに、コラーゲンスポンジに比べ歯髄創傷治癒過程で見られる炎症反応を抑制する可能性が示唆された。
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