研究概要 |
すべての組織の再生療法を構築するために必須の因子が細胞(幹細胞),シグナル因子,そして組織構築の足場となるスキャホールドの3要素である。そこで今年度は,歯髄組織再生療法に必要とされるこれらの各要素に関する基本的な研究を実施した。1)細胞について:歯髄細胞は歯周組織と同じく外胚葉性間葉細胞群に由来し,これは歯根膜細胞が象牙質・歯髄複合体再生療法における細胞ソースとなる可能性を示している。しかしながら,未分化な歯髄細胞が象牙芽細胞へと分化する機構についてもいまだ明らかにはなっておらず,そのためこれらのメカニズムを解明する上で,象牙芽細胞への分化能を有する歯髄由来細胞株の確立が不可欠である。そこで以前我々が報告している細胞培養法を用いて(Arch.Oral Biol.50,695-707,2005),石灰化能を有する歯髄組織由来細胞株KN-3細胞を確立した(J.Endod.37,1187-91,2007)。2)シグナル因子およびスキャホールドについて:歯髄腔内において歯髄細胞の増殖・分化に有効なシグナル因子とその投与法,さらにスキャホールドの組み合わせとして適した材料を開発する目的で,断髄後のラット臼歯の歯髄腔内に各種の材料を封入し,歯髄組織再生に最も有用なものを検索した。その結果,コラーゲンのスポンジをスキャホールドとして用い,そこに線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2)を含有させたゼラチンハイドロゲル粒子を封入することで,断髄後の髄腔内に歯髄細胞が増殖し,新たにこの場所で象牙芽細胞のマーカーであるデンティンシアロプロテイン-1(DSP-1)陽性の細胞に分化し,これらの周囲には石灰化粒が観察され(J.Eendod.37,1198-1202,2007),これが象牙質・歯髄複合体再生に有用であることが確認された。以上,今年度の研究によって象牙質・歯髄複合体再生に有用と考えられる材料・方法や,研究材料として重要な細胞株の確立ができた。
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