う蝕の治療において、感染象牙質の検出、エナメル質に限局した初期う蝕、光学的診査法によって検出されない極初期段階のエナメル質の脱灰、といった変化を捉え、どのような処置を行うのか、また、感染象牙質に対しては、どこまで感染象牙質を除去するのかを判定することが必要である。本研究ではQLF法(光励起蛍光定量法)を応用し、感染象牙質の侵襲程度と感染象牙質の発する蛍光強度との関連を検索した。う蝕の治療過程において△R Max値の推移を検討したところ、開拡の進行と共に△R Max値が増大し、感染象牙質の除去と共に△R Max値が減少するという結果が得られた。すなわち、△R Max値を基準として、標準化されたう蝕の治療が行えることが明らかとなり、う蝕治療の客観的な指標を示すことが可能となった。さらに、本研究ではう蝕の状態を検出するためにヘマタイト微粒子によるプローブを作製した。う蝕部位に物理的に付着するプローブを作製し、ヘマタイトの付着による色調の変化をQLF法によって捉えたところ、5分間以上の脱灰処理を行ったエナメル質脱灰試料において、0.02Mヘマタイト粒子を付着させた試料の△Q値は-10~-12%・mm2程度の値を示し、1、3分の脱灰処理を行った試料との間に有意差が観察された。0.02Mヘマタイト粒子を付着させた試料の電子顕微鏡による観察では、酸処理時間の延長とともにエナメル小柱結晶の間隙が拡大し、小柱結晶間にヘマタイトが付着している様子が観察された。以上の結果から、プローブとしてヘマタイト粒子を使用することにより、う蝕の脱灰程度をQLF法の応用によって数値化できることが明らかとなった。
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