研究概要 |
咀嚼筋痛は、顎関節症の主症状の一つであり、咀嚼時の顎筋活動、開閉口運動といった顎運動機能の障害を引き起こす。顎関節症に適切に対応するためには、咀嚼筋痛と関連した顎運動障害の様相を解明することが肝要である。 咀嚼運動を遂行する筋活動は、顎顔面口腔領域からの感覚情報を用いて調節される。したがって、咀嚼筋痛などの侵害刺激は、その部位や性状め違いにより咀嚼運動経路に様々な変化を及ぼすと考えられる。しかし、その変化の様相は未だ明らかではない。 そこで本研究では、主成分分析を応用して、咀嚼筋痛がもたらす咀嚼運動経路の変化を定量的に解析することを試みた。被験者は正常有歯顎者12名である.ガムを片側咀嚼させ,その際の下顎切歯点の運動経路を三次元的に記録した.一連の運動経路は咀嚼周期ごとに分割し,被験者ごとに得られた200周期の咀嚼サイクルを解析に用いた.各咀嚼サイクルの経路上に,所要時間をもとに41の標識点を設定し,それらの三次元座標である計123の変数を主成分分析に供した. その結果,咀嚼経路の変動は7つの独立した主成分でその93%以上が記述されることが明らかとなり、その主成分得点の比較から、咀嚼運動経路の変動を定量的に解析する方法を確立した。また、各主成分がもたらす経路への影響は,固有ベクトルの逆行列を用いて経路を再構成することで,視覚的に解釈を行った.それにより,7つの主成分の中には,全被験者において,経路の大きさに関与する成分,前頭面および矢状面における開口方向にそれぞれ関与する成分,経路の幅径に関与する成分という4つの類似した影響をもたらす主成分が含まれていることが確認された.さらに,それら4つの主成分によって各個人の変動の70%以上が説明可能であった.
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