研究概要 |
本研究の最終的な目標は,顎口腔系機能運動時の脳血流変化に作用する因子の特定およびその相互関係を明らかにし,歯科補綴治療による顎口腔系の機能回復によって脳血流および全身にどのような変化が生じるかについて検討を行うことである.本年度は,顎口腔系に問題のない健常有歯顎者群における咀嚼時の脳血流変化について,脳血流変化に作用するとあらゆる因子を同時計測し,脳血流の変化を目的変数とした多変量解析を行うことによって,咀嚼時の脳血流に影響する因子およびその影響を明らかにすることを目的に実験を行った.まず,咀嚼時の脳血流および循環動態に影響を及ぼすと考えられる自律神経活動の変化を,心拍血圧ゆらぎ解析によって示すことを目的に実験を行った.その結果,ガム咀嚼時には心臓交換神経活動が有意に増加し,心臓副交感神経活動は抑制されるが,血管運動性交感神経活動は有意な変化をしめさなかった,この結果,ガム咀嚼による脳循環および体循環の賦活化は,心臓自律神経活動の働きによって調節されていることが示された。次に,健常有歯顎者50名を対象にガム咀嚼時の脳循環・体循環・咀嚼筋筋活動量・自律神経活動を同時計測し,ガム咀嚼時の脳血流に影響を与える因子を多変量解析を用いた分析により明らかにすること目的に実験を行った.その結果,心拍出量と心臓副交感神経活動が有意な説明変数として選ばれた.さらに,健常有歯顎者において,ガムの甘み・香りが自律神経活動および循環応答にどのような変化を与えるかを明らかにするため,甘み・香りの異なる3種類のガムをもちいて実験を行った.その結果,甘みと香りが循環動態および自律神経活動に変化をもたらすことが明らかとなり,甘み・香りがある一般的に「おいしい」とされるガム咀噛時において脳血流をはじめとする循環応答が「おいしくない」,ガム咀嚼より賦活化することが示された.
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