本研究では、顎関節雑音症例の診断に有用な顎運動パラメータの抽出、考案を目的とし、今年度では当初70名の被験者の顎運動測定を予定していた。しかし測定した顎運動データの解析をすすめていくうえで、各被験者の顎関節雑音が関節円板の位置異常によるものかどうかを分類する必要性が生じ、MRI検査による関節円板の位置の同定が必要となったため、事務手続きや被験者の選定が煩雑となり、8名の顎運動測定、MRI検査にとどまった。 昨年度からの本研究での12名の顎運動データと、先に測定済みの80名分の顎運動データを元にクリッキング患者に特徴的な6自由度顎運動パラメータの抽出を試みた。顎口腔系に異常を認めない健常有歯顎者24名(男性12名、女性12名、年齢20〜59歳)のガム咀嚼中の顎運動データについて、運動論的顆頭点を下顎頭の解析点とし、咬頭嵌合位の顆頭間軸を基準顎位として、開閉口相で咀嚼側下顎頭が咬頭嵌合位から0.5mm離れた顎位における顆頭間軸とのなす角度(以下、顆頭間軸角)を求め、咀嚼開始15秒後からの咀嚼運動の5サイクルにおける顆頭間軸角の平均値を各被験者の代表値として選択し、統計解析を行った。開口相、閉口相ともに顆頭間軸角に左右の咀嚼側での差は認められなかったが、開口相と閉口相での顆頭間軸角の比較では有意差を認めた。閉口相における顆頭間軸角は大きい値を示すものから小さい値を示すものまで被験者間でバラツキが大きかったが、開口相の顆頭間軸角は全体に小さい値を示し、バラツキも小さかった。現在、顎関節雑音を有する被験者について同様に顆頭間軸角を求め、健常被験者との比較を行っている段階である。 なお今年度の学会発表については、"ガム咀嚼中の下顎頭運動"という演題で第21回日本顎関節学会総会・学術大会で発表を行ったほか、第117回日本補綴歯科学会学術大会で共同演者として参加するとともに研究調査を行った。
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