研究概要 |
本研究の目的は,FRCのような異方性複合材料の複雑な構造解析に適しているとされる有限要素法を用いて,FRCクラスプの最適形状,つまり十分な維持力が発揮できて,かつ壊れにくい形状を求めることである.維持力については,定量的予測法を確立し,繰り返し着脱試験の実測値とよく一致した結果を得ることが可能となった(平成19年度~20年度).今年度は壊れにくさの指標になりうる圧縮応力(最小主応力)について分析を行った.クラスプアームの断面形状は半楕円で漸縮比は1とし,幅(1.30mm,2.60mm,3.90mm)と厚さ(0.65mm,1.30mm,1.95mm)の組合せにより,Bb(2.60mm,1.30mm)を基本形状として,a(2.60mm,0.65mm),c(2.60mm,1.95mm),A(1.30mm,1.30mm),C(3.90mm,1.30mm)の5種類を設定した.支台歯底部を拘束し,サーカムファレンシャルクラスプ基部の節点群に強制変位を与え,摩擦力(動摩擦係数0.31)を考慮した境界条件非線形解析(接触解析)を行った.断面形態を変化させた5種のクラスプアームすべてにおいて,圧縮応力集中部位は鉤尖下部の点接触部を除けば鉤肩部であり,同部でのコーティング層の剥離やクラックの発生の可能性が高いことが示唆され,臨床応用例で遭遇する所見と一致した.また,鉤尖下部が支台歯の最大豊隆部に到達したときの各クラスプアームの鉤肩部における圧縮応力の最大値は,それぞれ91.7MPa(Bb),65.3MPa(a),102MPa(c),89.2MPa(A),101MPa(C)であり,これらの値は三点曲げ試験から得られたFRCの曲げ強度や片持ち梁曲げ試験から得られたFRCの破壊強度に比べて,かなり小さな値であったため鉤肩部においてFRC単味の圧縮破壊は生じないことが示唆された.
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