本年度は、昨年度から継続していたマウス歯胚細胞とヒト抜去歯からの歯根膜細胞の分離・培養が順調に進行して十分な細胞が得られたため、種々の器官培養法を試みた。その結果、マウス歯胚とヒト歯根未完成歯を用いて、シャーレ上で歯根・歯周組織ユニットの形成を可能にする新規器官培養法の開発に成功した。この成果に基づき、本年度は次世代の歯の再生法の基盤技術となる新規培養技術の関連特許2件を特許出願した。この特許技術は、異種動物の体内で歯の再生を行っていた従来法とは異なり、動物を用いずにシャーレ上での歯・歯周組織の複合体の創製、いわばtest-tubeteeth(試験管内で作る歯)を可能とする技術であり、真に臨床応用できる歯の再生を実現する革新的な成果である。現在、論文発表に向けてさらに詳細なデータを収集している。また、ヒト歯の生体外培養環境の改善を図るため、アロカ(株)と共に微速灌流培養装置の共同開発を行い、現在試作機が完成してヒト歯の培養を開始した。この培養装置によって、新鮮な培養液の灌流による培養組織の栄養状態の改善と各種センサーによる培養環境の制御・管理が可能となり、より成熟したヒト再生歯の形成と培養期間の短縮が期待できる。これに並行して、歯根膜細胞からのニューロンおよび筋細胞の新たな分離・培養法の開発に成功した。これらの細胞は、各細胞系列にコミットした細胞集団であり、前駆細胞と分化・成熟した細胞から構成された未分化細胞を含まない細胞集団である。そのため、脊髄損傷や筋変性疾患などの細胞治療において、従来のES/ips細胞の課題となる未分化細胞の残存の危険性を回避できる、新たな細胞治療のストラテジーを提起する研究成果となる。以上のように、我々は歯科臨床から入手できる抜去歯を用いて、将来の歯の再生医療ならびに全身疾患の再生医療へ向けた基盤技術の開発に成功した。
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