歯の神経が神経移植の際のドナーとして利用できないかと考え、異種移植の系で実験した。抜去歯からヒト歯髄を採取し、液体窒素で処理して抗原性を低下させた後、雄SDラットの坐骨神経の切断部位(10mm)に移植した。その際、神経を直接縫合することは困難であるため、人工神経としても利用できるキトサンチューブの内部に歯髄神経を填入して顕微鏡下でチューブの近位側、遠位側を坐骨神経の周膜に8-0の糸で縫合した。コントロールとして同種ラットから採取した神経、またチューブ単独で使用した群を設定した。歯髄神経移植後、患側の中足は縮まり萎縮しているが、明らかな行動の活動性低下は認められなかった。移植後8週目に、神経移植した箇所を露出させ神経刺激装置で電気刺激し、神経の回復状態を確認した。しかし、明らかな電気の伝導は認められず、機能的な評価は困難であった。そのため、ラットを犠牲死させ神経縫合部を採取し形態的に評価した。トルイジンブルー染色で、歯髄神経内にminifasciclesの存在を認め、Anti-neurofilament抗体とS-100抗体を用いた免疫染色は陽性であり、新生軸索ならびにシュワン細胞の存在が示唆された。これは、中枢側から軸索が移植したヒト歯髄内部に伸展していること、すなわち歯髄神経のシュワン細胞の基底膜を利用して、新生軸索が末梢側へ伸展していることを裏付けている。この所見より、歯髄も神経移植のドナーになり得る事が判明した。現在、アクソンのミエリン化の状態やシュワン細胞の状態の検討評価のため透過型電子顕微鏡(TEM)検査を行っている。このデータがまとまりしだい、論文発表、学会発表する。
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