研究概要 |
本研究は,神経因性疼痛に適用されるACイオントフォレーシスの鎮痛効果には中枢変化も関与するのかを明らかにするために行われている。本年度は,眼窩下神経Chronic constriction injury (CCI)モデルラットを用い,免疫組織学的実験を行った。CCIが成功したラット20匹をコントロール群,リドカイン貼付群,生食I0P群,リドカインI0P群の4群に分け,それぞれの処置後に機械的侵害刺激を与えた。その後Fos様タンパク陽性細胞の免疫染色を行い、三叉神経核内のFos様タンパク陽性細胞発現の違いを比較検討した。当初予定していた観察部位であるVi/Vc領域にはほとんどFos様タンパク陽性細胞発現を認めなかったため,Vc領域に観察部位を変更した。 その結果,ACイオントフォレーシスは生理食塩水と4%リドカインどちらの使用でもVc領域のFos様タンパク陽性細胞発現を減少させた。よって末梢での局所麻酔効果のみでなく,他の要因が鎮痛効果をもたらす一助となっている可能性が示唆された。また,リドカインI0P群では他の群より広範囲のVc領域でFos様タンパク陽性細胞発現の減少が認められたため,局所麻酔薬と電気刺激双方が利用された場合は,より効果的に侵害受容性疼痛の抑制が期待できると考えられる。さらに,Fos様タンパク陽性細胞数の変化は,主にVc領域浅層に認められたため,ACイオントフォレーシスは侵害受容ニューロンの活動に影響を与え,鎮痛効果を発揮すると思われた。 現在までは,ACイオントフォレーシスの効果は,主に局所麻酔の薬理作用によって発揮されると考えられていた。しかし本研究の結果より,それ以外の要因が中枢のニューロン活動に変化を与え,鎮痛に寄与している可能性が示唆された。ACイオントフォレーシスの鎮痛機序に新たな可能性を見出したことに,この研究の重要性があると考える。
|