本研究では、下歯槽神経の切断術後、持続的にリコンビナント神経栄養因子を投与し、歯根膜ルフィニ神経終末の再生過程を検索し、リコンビナント神経栄養因子投与のより効果的な作用時期、投与時期を明らかにすることを最終目的としている。前年度は歯根膜ルフィニ神経終末が特異的に発現しているtrkBのリガンドであるBDNFとNT-4/5について検討を加えたが、今年度はグリア細胞株由来神経栄養因子(glia-cell line neurotrophic factor ; GDNF)の下歯槽神経切断における役割を検討した。 Atsumiらの方法に従い、ラット下歯槽神経を切断し、下顎切歯歯根膜におけるGDNFの発現変化を免疫組織化学で染色したところ、切断後3日〜1週には歯根膜ルフィニ神経終末に付属する終末シュワン細胞は消失し、正常時には存在しない歯牙寄りの歯根膜(tooth-related part ; TRP)にシュワン細胞が遊走した。この細胞は紡錘形を示し、またGDNFは陰性であった。切断後2週でこのGDNF陽性細胞の数はピークに達したが、以後、TRPから消失した。一方、この時期、歯根膜ルフィニ神経終末は再生が進むとともに、GDNF陽性の終末シュワン細胞が出現した。三叉神経節では術後2〜4週でGDNF陽性ニューロンの数が増加したが、GDNF陽性三叉神経節ニューロンの大きさには変化がなくこれら陽性ニューロンは中型ニューロンであった。 これらのことはGDNFが歯根膜ルフィニ神経終末の再生過程の成熟期に関与することを示している。前年度の研究成果と考えあわすと、BDNFは歯根膜ルフィニ神経終末の再生のトリガーとなり、再生期間中にわたって作用し、NT-4/5は再生の初期、GDNFは再生の成熟期に作用していることが伺え、歯根膜ルフィニ神経終末の再生には多様な神経栄養因子が時期依存的に作用していることが考えられた。
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