顎矯正手術は、顎変形症患者に対して顎口腔機能の回復ならびに正常な咬合関係の確立とともに顎顔面形態の美的改善を目的として行われる。とくに近年増加傾向にある顔面非対称症例では、どこを基準に手術計画を立てるべきかが重要な問題である。そこで、本研究では「顔の非対称度を規定するものは何か?」つまり、われわれが顔のどこを基準に非対称性を判断しているのかを明らかにする。 顔貌の主観的評価法には、アイトラッキング法を用いた視線移動軌跡分析法を応用し、顔貌評価システムを開発する。本研究に使用する眼球運動測定装置(TalkEye II)は、眼球に微弱な赤外線を照射したときに角膜や水晶の屈折面に生じる反射像(プルキンエ・サンソン像)が眼球運動において瞳孔に対し動きが少ないという特性を利用し、瞳孔と反射像の両者をアイカメラで撮影しその位置関係から眼球運動角を算出するものである。実際には、評価者にモニターに映し出された顔貌写真を見ながら考えていることを口に出してもらい、アイトラッキング法と同時に正貌写真をみた所見をICレコーダに録音して分析するプロトコル法を組み合わせて行う。 今年度は、顔貌評価システムのセッティングを行うとともに、顔貌写真を映し出したモニター画面を注視する場合のアイトラッキング法の測定精度について検討を加えてきた。その結果、高い精度で視線移動軌跡データを算出するためには視線のキャリブレーションとともに評価者の頭位の固定が不可欠であることが判った。そこで、頭位の固定装置を本システムに導入して測定精度の検討を再度行うとともに、顎変形症患者の顔貌評価の測定を開始した。
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