顔面非対称を呈する顎変形症症例では、左右的な咬合平面の傾斜やオトガイ部の偏位だけでなく、左右の外耳道や眼窩の位置異常など複雑な変形を呈することが多く、自然頭位での傾斜を認めることもよくある。本研究では、われわれ医療従事者が顔のどの部位を見て対称性を評価しているのかを明らかにするために、客観的評価と主観的評価ならびにアイトラッキング法を用いた分析結果との関連について検討を行なった。評価には、顎変形症と診断された患者のうち資料の揃った30名(男性7名、女性23名)の術前正貌写真を用いた。評価者は口腔外科医7名、歯科矯正医3名、計10名とした。評価者にはモニター上に一人の患者につき20秒間提示された正貌写真をみてもらい、主観的評価として"ほぼ対象"をO、"非対称を認めるが許容範囲内"を1、"明らかな非対称を認め治療が必要"を2に分類してもらった。さらに、アイトラッキング法を用いて評価時の評価者の視線運動軌跡から注視点を解析し、目、鼻、口、オトガイ、頬部の各部位における注視回数と注視時間および顔貌内における初回注視点を算出した。各症例に対する評価者10名の主観的評価の平均値を算出して主観的非対称度とし、正貌写真分析結果と比較したところオトガイの偏位度や口裂の傾斜、顎角部の角度的非対称率、口角部の角度的非対称率および顎角部の距離的非対称率と相関関係を認めた。また、注視点の分析結果では、初回注視点は鼻部が最も多く、次いで口唇部であった。注視回数ならびに注視時間は、ともにオトガイ部、鼻部、口唇部の順で高い値を示し、中顔面から下顔面に注視部位が集中した。以上の結果より、正貌における対称性の主観的評価には、オトガイの偏位度や口裂の傾斜が大きく影響していると考えられた。
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