口腔癌の治療成績は近年めざましく向上したが、進展例では必ずしも良好な結果が得られるとは限らす、たとえ癌を制御したとしても重大な審美障害や機能障害を後遺し、社会復帰が困難となる場合も少なくない。口腔扁平上皮癌の大多数は、比較的長期間の前癌状態を経て癌化すると言われており、口腔癌を前癌病変、上皮内癌、あるいは早期浸潤癌の段階で発見し治療ができれば、良好な予後と機能温存とを両立できることが予想される。また、口腔扁平上皮癌では基底膜を越えて浸潤しても筋層浸潤がなければリンパ節転移や遠隔転移を生じることは稀である。本研究は、口腔癌の予後の向上につながるものと期待し、口腔癌の基底膜浸潤や筋層浸潤の機序を解明することである。内容は、口腔癌の悪性化の初期像として量も重要な所見である癌細胞の基底膜への浸潤ということに着眼し、1)前癌病変や白板症、扁平苔癬などの粘膜病変上皮をAlloDerm上で複合粘膜培養し、得られた培養粘膜を観察すること、2)口腔癌患者から得られたさまざまな口腔癌組織(sequence癌およびnon-sequence癌)、および口腔癌由来細胞株をAlloDerm上で複合粘膜培養し、初期浸潤像を観察すること、3)得られた口腔癌由来培養複合粘膜をヌードマウスに移植することにより、in vivoにおける初期浸潤モデルを開発することを目的としている。 平成20年度は、AlloDerm上で口腔扁平上皮癌細胞HSC-3を培養し、経時的に観察することで基底膜浸潤をすることが捉えられた。また、同細胞株をヌードマウスの皮下に移植し、リンパ節転移と肺転移について検討を行った。今後も継続して多種の細胞で検討を行い、また、インフォームドコンセントを行い文書による了解が得られた臨床検体につき、上記の手法で培養を行い、HE染色およびp53、MMPなどの免疫染色を行い、組織学的観察やp53遺伝子変異の有無、細胞増殖能、基底膜浸潤の検討を行い、採取元の組織と比較することを計画している。
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