研究概要 |
歯科治療時に生じる全身偶発症で特に多い神経性ショックや過換気症候群は,脳血流の供給不足による一過性のめまいや意識障害を特徴とする.これら全身偶発症の予防および精神的緊張の緩和のために,歯科口腔外科領域においてプロポフォールやミダゾラムなどによる静脈内鎮静法が有効に行われている.しかし,静脈内鎮静法によって精神的緊張の緩和が得られたとしても,投与された鎮静薬によって血圧の変化を緩衝し脳に一定の血液を供給する機構:脳血流自動調節能が障害されれば,歯科治療によって誘発された血圧の変化が軽度でも脳血流量が大きく変化し,一過性の脳貧血を生じる可能性がある.しかし,静脈内鎮静法が脳循環調節機能に及ぼす影響については明らかにされていない.そこで本年度は,プロポフォールが脳血流自動調節能に及ぼす影響について検討を行った. プロポフォールを臨床の場と同様な鎮静深度になるように投与した際に平均血圧と脳血流速度を測定し,両者の関係から動的脳血流自動調節能を評価した.その結果,プロポフォール鎮静では,脳血流速度の低下が認められるものの,脳血流自動調節能には有意な影響を及ぼさない可能性が示唆された.また一過性の血圧低下に対する脳血流量の回復速度は,軽度遅延する結果が認められた. プロポフォールとミダゾラムの両者は脳代謝を低下させるものの,プロポフォールは自律神経バランスを副交感神経優位に,一方ミダゾラムは交感神経優位にし,さらに脳血管抵抗を増加さえるという相違がある.そのため,プロポフォールとミダゾラムでは脳循環調節のメカニズムに及ぼす影響が異なることが予測される.そのため次年度は,本年度の結果を踏まえ,ミダゾラム鎮静との比較・検討を予定している.
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