アロディニア発生機序の解明を目的として、下歯槽神経切断モデルラット及びラットの延髄部分にカテーテルを留置するモデルを作成し、神経因性疼痛治療薬であるGabapentinおよび抗鬱薬であるAmitriptylineの効果を確認した。下歯槽神経切断後には翌日から手術側上口唇における疼痛逃避閾値の低下がみられたが、延髄カテーテルを通じてGabapentin(200μg/day)もしくは腹腔内にAmitriptyline(4mg/day)を神経切断後7日目から5日間連続投与すると、低下した疼痛逃避閾値の回復が確認され、これら薬剤はそれぞれ全く作用が異なるにも関わらず、神経因性疼痛に同様の抑制効果を持つことが示された。また、下歯槽神経切断は三叉神経節内神経細胞における様々な遺伝子の発現を上昇させることをこれまでに確認しているが、Gabapentin投与後の神経因性疼痛軽減後の組織においてもほとんどの遺伝子の発現上昇は維持されたままであった。そのなかで唯一、Gabapentinの標的分子でもある電位依存性カルシウムチャネルのサブユニットの一つ、CACNA2D1の遺伝子においてのみ、神経因性疼痛軽減後に有意に発現レベルの抑制が見られた。これはCACNA2D1遺伝子の発現が自己の活性化によるフィードバック制御を受けている可能性と共に、神経因性疼痛の維持機構において、神経損傷により発現が上昇する多くの遺伝子の中でも特にCACNA2D1の重要性、さらには末梢神経細胞におけるカルシウムシグナルの重要性を強く示唆するものである。Amitriptyline等他の薬剤による疼痛抑制の影響など、さらなる今後の研究が必要とされる。
|