研究概要 |
我々はリンパ管内皮細胞の診断マーカーであるPodoplaninがヒト口腔扁平上皮癌(ORSCC)に高率(約70%)に発現していることを見いだし、報告してきた。昨年度は、ORSCC細胞株を用いてin vitro実験によりPodoplanin発現がSmad2/3シグナル経路を介してTGF-βにより正の制御を受けていることを明らかにした。今年度はTGF-βが一部の口腔扁平上皮癌においてPodoplanin発現誘導と同時に、EMT(上皮間葉系移行)を誘導することが報告されており、PodoplaninとEMTとの間に何らかの連関が予想されたため、UMSCC81細胞を用いてEMT誘導について検討した。その結果、TGF-βにより確かにVimentin, Snailの発現が亢進し、これらはTGF-β Type 1受容体阻害剤で阻害されることから、TGF-βがPodoplanin発現誘導と同時に、EMTを誘導することが判明した。別途、我々はUMSCC81細胞から分離した薬剤耐性株(UMSCC81-Fb)が典型的なEMT形質を示すことを見いだしたため、このUMSCC81-Fbについても詳細に検討した。その結果、UMSCC81-Fb細胞株ではVimentin, Snailは強発現するものの、Podoplaninを殆ど発現しないのみならず、他のstem cell markerとされるALDHも殆ど発現しないことが判明した。一方、UMSCC81細胞ではEMTはEGFによっても誘導されることを見いだした。以上のことから、本細胞においてはPodoplaninはがん幹細胞マーカーではあるが、浸潤やリンパ節転移等との関連が報告されているEMT誘導には直接的には関係しない可能性が示唆された。
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