研究課題
歯科矯正治療による歯の移動の本態は、機械的な力に対して起こる歯根膜周囲の骨吸収と骨形成である。この反応に影響を与える因子として、これまでに様々なサイトカインや細胞外マトリクスタンパク、マトリクス分解酵素などが同定されてきた。ところで、2つの異なるアメロジェニンアイソフォームは、歯周、骨、その他の間葉系細胞において、本来の細胞外基質としての役割ではなく、むしろ細胞間のシグナル伝達物質としての役割を担っていると考えられるが、アメロジェニンアイソフォームの機能の違いについては未解明である。本研究の目的は、歯根膜周囲に存在するマラッセの上皮遺残が発現しているアメロジェニンの役割や、アメロジェニンが周囲組織の細胞集団(様々な分化段階を持つ間葉系細胞)に対してどのように機能しているかを明らかにすることである。今年度は、昨年度作成したpcDNA3.1Myc-hisベクターを用い、異なる分化段階を持つ各種間葉系細胞への遺伝子導入を試みたが、思うような発現量のコントロールができなかったため、現象に対する評価が困難であった。そこで、ほ乳類浮遊細胞を用いたタンパク大量発現型系からのM180とLRAPの回収と精製を試みたところ、おそらく翻訳後修飾が異なる2つのサイズを持つM180とLRAPを、Mycタグアフィニティービーズを用いてそれぞれ回収することができた。これらのタンパクを定量後、様々な分化段階を持つ間葉系細胞株培養系に添加し、遺伝子発現の変化を解析するためRNAを抽出、リアルタイムPCRマシンを用いて評価を行った。また、骨においてM180とLRAPを発現するトランスジェニックマウスを入手し、マウスから分離した骨髄間葉細胞の破骨細胞支持能を評価した。これらの実験から得られた結果は、歯根周囲に発現しているアメロジェニンが周囲間葉系細胞に及ぼす役割を明らかにし、歯の移動時に起こる異常な歯根吸収のメカニズムを解明する端緒となると考えられ、その基礎的知見のみならず臨床的な意義も大きいと考えている。
すべて 2009
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Matrix Biology 28
ページ: 129-136
Developmental Biology 325(1)
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