研究概要 |
口腔バイオフィルムの主体であり、う蝕の主な原因菌であるStreptococcus mutansは、乳幼児期に母親などの養育者から子へ伝播する。我々のこれまでの研究で174組の母子(3歳児)から分離したS.mutansをパルスフィールドゲル電気泳動法(PFGE)を用いて母子間の一致率を調べるとともに、ゲノムDNAが異なる17種類を同定することができた。このうち、バイオフィルム形成能が最も高い株と低い株についてFlow cell systemを用いてバイオフィルムを形成させ、共焦点レーザー顕微鏡にて観察し、画像評価を行った。さらにDNAマイクロアレイを用いて、バイオフィルム形成時の発現に差のある遺伝子を明らかにした。 スクリーニングできた74のバイオフィルム関連遺伝子の中でも、母子間で遺伝子型(PFGEパターン)が一致せず、子のみより分離された臨床分離株S.mutans6株がほとんど保有していた遺伝子SMU832,833に注目し、これらの遺伝子欠損株を作製し、バイオフィルム形成能を調べた。バイオフィルム形成能は、96-well plateに各細菌懸濁液を入れ、37℃ CO_2下にて培養した後、形成されたバイオフィルムをサフラニン溶液にて染色し、吸光度(492nm)を測定することにより定量化した。 これら欠損株においては、Tryptic Soy Broth without Dexstrose培地における6時間培養において、バイオフィルム形成能が親株(S.mutans UA159)よりも高くなったが、18時間培養では差が認められなかった。また、Brain Heart Infusion培地においては、菌の凝集が認められた。以上のことから、SMU832,833は、子供がS.mutansを獲得する時期でもある初期のバイオフィルム形成や菌の凝集に何らかの影響を及ぼしていることが示唆された。
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