研究概要 |
Streptococcus mutansはう蝕の主要な原因細菌であるとともに,感染性心内膜炎の起炎菌としても知られている.これまで.S.mutansの分類法としては,血清学的分類や染色体DNAを用いたフィンガープリント法などが用いられてきたが,これらの方法に対しては種々の問題点が指摘されてきた.それにもかかわらず,これらの分析法以外に,病原性や伝播に関する研究のための系統的な進化解析はほとんど行われてこなかった.そこで,本研究では,近年多くの菌種で確立されてきたMultilocusSequenceTyping(MLST)法をS.mutansで確立し,総計101株の国内外の口腔および感染性心内膜炎患者血液由来のS.mutans菌株について分析を行った.具体的には,S.mutansUAI59の全ゲノム配列より8種のハウスキーピング遺伝子をターゲットとレてプライマーを設計し,PCR法にて遣伝子断片を増幅後,遺伝子配列を決定した.これにより得られた配列から,MLST解析を行うことにより系統樹を作製した.その結果,101株は92のSequenceTypeに分類され,血清学的には,e.f型株がそれぞれclonalcomplexを形成した.また,象牙質や軟組織中に存在する1型コラーゲンへの結合に関与するenm遺伝子を有する菌株が,ある特定の領域に集中する傾向が見られた.このように,本研究で確立されたMLST法は,S.mutansの分子生物学的手法を用いた系統的進化解析や病原性獲得に至る伝播様式の解明にも応用できることが示された.
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