研究概要 |
Streptococcus mutansはう蝕の主要な原因細菌であるとともに, 感染性心内膜炎の起炎菌としても知られている. これまで, S. mutansの分類法としては, 血清学的分類や染色体DNAを用いたフィンガープリント法などが用いられてきたが, これらの方法に対しては種々の問題点が指摘されてきた. そこで, 近年多くの菌種で確立されてきた系統的な進化解析法である, Multilocus Sequence Typing(MLST)法をS. mutansではじめて確立し, 国内外の口腔および感染性心内膜炎患者血液由来のS. mutans臨床分離株について分析を行った. これにより得られた系統樹から, 分析したS. mutans 101株は92のsequence Typeに分類され, 血清学的にはe, f型株がそれぞれclonal complexを形成することが明らかとなった. また, 象牙質や軟組織中に多く含まれるI型コラーゲンへの結合に関与するcnm遺伝子を有するS. mutansが, ある特定のクラスターに集中する傾向が見られた. そこで, cnm遺伝子に着目し研究を進めたところ, cnm遺伝子保有S. mutansが口腔内に存在する患者の割合に約10%であり, cnm遺伝子保有菌株が口腔内に存在する小児では, cnm遺伝子を持たない菌株のみしか存在しない小児と比較して多数のう蝕が存在した. さらに, cnm遺伝子保有菌株は母から子へと伝播していることが明らかとなった. このように, 本研究で確立されたMLST法で, ある特定のクラスターに集中するS. mutansに共通した性状が, う蝕病原性に関与している可能性が示された.
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