矯正歯科医による治療計画立案時の便宜抜歯に関する判断を行う数理モデルのプロトタイプを作成した。対象とした判断は、便宜抜歯をするか否か、そして抜歯するならどの歯を抜くのかという2つのステップにより成り立つ。各ステップに対して小数理モデルを開発し2段構成で実現した。客観的評価尺度で改善が認められた177名の矯正歯科治療を受けた患者の資料(口腔模型、側面位(正面位)エックス線規格写真、パノラマエックス線写真、診療録)を収集した。収集した資料から、矯正歯科医の判断に影響を与えると思われる特徴変量44個と実施された治療情報を抽出した。それぞれの小数理モデルに対して以下の手法に従い最適化した。抽出された特徴変量の組み合わせを探索的に決定し特徴ベクトルVRawを生成した。 各特徴変量に対して矯正歯科医の知識・判断処理を非線形関数により実装し、VRawに適用して特徴ベクトルVNLを得た。1症例をテストデータ、残りの症例をモデルが保持する知識とした特徴ベクトル空間でのテンプレートマッチング処理によりモデル出力を決定した。評価は、各症例がテストデータとなるように繰り返し行い、モデル出力と入力症例に対応する治療情報が一致した数の、モデル総数に対する割合(一致率)を計算して行った。各小数理モデルに対して、特徴ベクトルの定義方法(VrawまたはVNL)、テンプレートマッチングの距離計算時の重み係数、モデル出力決定時の多数決処理に関して一致率を指標として最適化した。結果として、矯正歯科医が便宜抜歯に関する一連の判断を行う際に考慮する29の特徴変量が明らがとなり、82%の一致率が得られた。本研究で行われた数理モデル化は、事実に基づくものであるためある判断に対するEvidenceを担保する上で有用であるだけでなく、専門家の知識・判断を数学的に記述するため、専門家育成のための教育に役立つ。
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