研究概要 |
矯正歯科医が治療計画立案時に行なう、2ステップで構成される便宜抜歯に関する最適な判断(便宜抜歯をするか否か、そして抜歯するならどの歯を抜くのか)を予測する数理モデルを開発した。昨年度に作成したプロトタイプの性能を改善するために、今年度はそれぞれのステップに対応する数理モデルの最適化パラメータの組み合わせを詳細に設定し最適化した。 1.便宜抜歯をするか否かを予測するモデルについては、客観的評価尺度で改善が認められた188症例データから顎顔面形態を表現する27の特徴変量を抽出した。そして、1000通りの特徴変量の組み合わせ、予測時の着目の強度を示す重み係数を8000通り, 出力を決定する論理のパターンを7通り、の合計5,600万通りの数理モデルを生成し、実際に行なわれた治療方法(抜歯・非抜歯)との一致率を指標として最適化した。最適化されたモデルでは、25変量が採用され90.4%の一致率が得られた。 2.最適な抜歯部位を予測するモデルについては、客観的評価尺度で改善が認められた193症例データから21の特徴変量を抽出し、1で記述したものと同様の条件で最適化を行なった。最適化の指標については、複数の選択肢が発生する可能性があるため、3名の熟練の矯正歯科医が行なった判断のうち2名以上の判断が合致した抜歯部位の判断との一致率を用いた。最適化されたモデルでは19変量が採用され、80.6%の一致率が得られた。 そして、本研究プロジェクトで開発されたモデルを用いて専門家の判断のシミュレータを作成して、歯学部の学部学生教育への応用を検討し、本成果を生体医工学シンポジウム2008にて発表した。本研究で開発された数理モデル化手法は、医療においてEvidenceを担保する上で有用であるだけでなく、専門家の知識・判断を定量的に記述するため、専門家育成のための教育に役立つことも明らかとなった。
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