本年度の研究では、申請者が以前に報告したside population(SP)法を応用して、ヒト歯根膜幹細胞に特異的な表面抗原マーカーの探索を行った。その結果、グロボ系ガングリオシドであるstage-specific embryo antigen-4(SSEA-4)が、未分化な歯根膜幹細胞にて特異的に発現していることが示された。SSEA-4は未分化ヒト胚性幹細胞のマーカーとして知られているが、培養ヒト歯根膜細胞の約33%においても発現が認められた。ヒト胚性幹細胞と同様、歯根膜細胞においても、all-trans-retinoic acid刺激を行うと、グロボ系ガングリオシドであるSSEA-3/SSEA-4発現の低下と、ラクト系ガングリオシドであるSSEA-1発現の上昇が認められた。SSEA-4陽性歯根膜細胞は、SSEA-4陰性細胞に比べて高い増殖活性とテロメア長を有していた。SSEA-4陽性歯根膜細胞のclonal assayを行った結果、63.6%(14/22)の細胞が脂肪細胞と骨芽細胞の両方への分化能を有していた。また、これらの細胞は、軟骨細胞・神経細胞・肝細胞への分化能を有していることが示された。このことから、SSEA-4陽性歯根膜細胞は、中胚葉由来組織(脂肪細胞・骨芽細胞・軟骨細胞)だけでなく、外胚葉由来組織(神経細胞)や内胚葉由来組織(肝細胞)への分化能も有する、高い分化能を持つ幹細胞であることが示された。
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