我々はエナメル質の再生およびう蝕などの宿主感受性(リスク)の原因や診断法の開発を目標として、エナメル質形成に関わる分子の包括的な解析を行ってきた。歯の発生過程に関わる新規の分子を検索し、歯に異常をきたす眼歯指異形成症の原因遺伝子であるGja1分子に着目した。 歯胚の形成期におけるGja1の発現に関しては、マウス臼歯では胎生13.5〜14.5日では発現が認められず、胎生17.5日から発現が認められた。また、6週齢のマウス切歯の組織におけるGja1の局在については、分泌前期、分泌期および成熟前期のエナメル芽細胞に多く発現が認められ、成熟後期のエナメル芽細胞では、発現が認められなかった。これらのことから、Gja1分子がエナメル芽細胞の分化時期特有に発現し、マウスのエナメル芽細胞において細胞の分化に重要であることが示唆された。また、Gja1分子の欠損マウスを用いた解析から、頭蓋顔面の形態異常とエナメル芽細胞の分化異常を示し、ヒトの眼歯指異形成症と類似の表現系を示すことを明らかにした。本マウスは先天性の心臓疾患と肺の形成異常のため、出生後まもなく死亡する。本マウスのエナメル芽細胞について詳細な解析を行った結果、細胞極性が著しく阻害されていること、さらにはマウス歯胚由来mRNAを用いたマイクロアレーの解析から、エナメル基質のうち、アメロブラスチンの発現が、Gja1欠損マウスにおいて著しく低下している結果が得られた。このことから、ギャップ結合、特にGja1分子がアメロブラスチン発現制御に関わる新規分子であることが明らかとなった。さらにGja1によるアメロブラスチン発現に関わる分子シグナルの同定にも成功し、ギャップ結合分子の発現が、細胞外からの増殖因子刺激による細胞内シグナル分子MAPKinaseのリン酸化制御に関わることを発見した。以上の結果から、ギャップ結合分子の存在やその制御が、歯の発生に極めて重要かつ必須の分子であることが明らかとなった。
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