本年度はウィスター系ラットを用いて、口腔領域、とくに歯根膜に加わる痛みとストレスの行動学的な解析を予備実験として実行した。全身麻酔下で、脳手術にて脳慢性電極を埋め込み、視床下部ニューロン活動の記録を行った。同時に、咬筋の筋電図を記録し解析した。一群は口腔内にCo-Cr合金装置を切歯部に接着した。この装置は50グラム相当の力を発揮するものであった。もう一群は対照としてシャム装置を接着した。ペニシリン投与などによって飼育・記録中の感染症を防止した。24時間後、5分間自由行動下でデータ記録を行った。その後、30分間の急性的拘束ストレスを両群に与えて、もう一度データ記録を行った。結果として、装置装着後に実験群のラットには装置接着後の一日目に痛みやストレスを示す行動を認めた。行動学的なパラメータの中で、特に歩行行動や摂食行動の低下は特徴的であった。摂食行動は低下したのにかかわらず、咬筋の筋電図活動はやや上昇した。視床下部ニューロンの自発発火活動は実験群が対照群より低い頻度を認めた。拘束ストレスを与えた後に、実験群および対象群ともに咬筋の筋電図活動は上昇して、咬筋活動に対して実験群と対象群の間に差がなかった。データは、歯からの感覚入力が急性的なストレスで誘発された咀嚼行動表現に不可欠でないと示唆した。今後は、データー統計処理が出来るまでラットのデータ数を増やしていく予定である。また、装置の発生する力を変え、ストレス刺激になる閾値を調べることを予定している。
|