研究概要 |
本研究では,末梢神経傷害後に障害を受けた神経細胞のみでなく傷害を受けていない神経細胞も神経ペプチドを発現しているか,またこの発現にcross-excitationが関与しているかどうかを考察するために,以下の実験を行った。まずラット上顎臼歯を抜歯し,抜歯に伴う三叉神経節ニューロン内のSP,P2x3(Arp受容体),ATF3(神経傷害マーカー)免疫陽性ニューロン数の変化について検討した。また,抜歯後における抜歯窩骨修復および対合歯の自然挺出移動と,三叉神経節における神経ペプチドとの関連性を考察するために,免疫染色と生体染色を行い,抜歯窩と対合歯周囲の骨代謝について検討した。その結果,以下に示す知見が得られた。 1.上顎臼歯の抜歯後,三叉神経節上顎対応部位のニューロンはATF3陽性で,SP,P2X3も免疫陽性であった。下顎対応部位のニューロンは傷害を受けていなかったにもかかわらず,SP,P2X3の発現が上昇した。 2.三叉神経節上顎対応部位ニューロンのSP発現数は,抜歯後3時間に減少し,その後増加傾向を示して,3日後には最高値を示した。これは下顎神経対応部位のニューロンでも同傾向であった。 3.上顎抜歯窩では神経ペプチドを含む神経線維が抜歯後3日に現れ,経時的に増加した。 4.対合歯の挺出量は抜歯をしていない場合と比較して,抜歯後は挺出量が有意に増加した。抜歯をして下歯槽神経を切断した場合には,抜歯のみを行った場合と比較して,挺出量が減少した。 以上の所見から,抜歯刺激により,傷害を受けた三叉神経節上顎神経対応部位のみではなく,下顎神経対応部位にもその刺激が伝達され,その結果下顎臼歯が挺出移動することが示唆された。P2X3についても三叉神経節内の上下顎対応部位で共に増減していることから,この上下顎骨代謝調節機構にATPが関与していると考えられるが詳細は明らかでないため,ニューロンのみではなくsatellite cellについても検討する予定である。
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