エナメル質の脱灰と再石灰化のプロセスは、それに隣接する歯垢内の環境に強く影響される。近年の研究では、歯垢内部とエナメル質との境界部の重要性が認識されるようになり、歯垢も2次元的(単体)ではなくその表層、内層といった厚みを考慮して3次元的に捉えられるようになってきた。加藤らが開発した歯垢堆積装置を用いた歯垢中ミネラルや細菌の層別分析法が確立されたことにより、歯垢表層と内層では、ミネラルや細菌の分布が異なることが明らかにされ、歯垢のより詳細な情報が求められるようになってきた。これまでの研究では、シュクロース応用後の歯垢内ミネラルの変化については、歯垢を単体として検討してきたものしかなく、表層部、内層部におけるミネラルの変化を検討した研究はない。 平成20年度の研究では、in vivoにおいて歯垢堆積装置を被験者の上顎右側臼歯部2個に装着し、7日間の歯垢堆積期間の後、歯垢堆積装置を1個撤去、その後10%シュクロースを2分間応用し、30分経過したところでもう一方の歯垢堆積装置を撤去し、シュクロース応用前後の歯垢表層および内層におけるリン濃度を計測した。その結果、歯垢内リン濃度は、歯垢表層は内層よりも高いこと、またシュクロース応用前後で比較すると歯垢表層の方が内層と比較してシュクロース応用後のリン濃度の低下が大きいことが明らかとなった。この結果より歯垢表層と比較して内層ではショ糖が浸透しにくく、その結果pHが低下しにくいため、ミネラルの溶出が少ないことが考えられた。
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