研究概要 |
齲蝕はミュータンス連鎖球菌により齲窩が形成され、また齲窩にグラム陰性菌が増殖することによって、歯髄炎、歯髄壊死などの症状へと進展する。これらは、プラーク細菌由来リポポリサッカライド(LPS)、マトリックスプロテアーゼ(MMPs)などが原因であり、このような炎症時には歯髄において好中球などの免疫担当細胞の浸潤、炎症性サイトカインの産生がみられることが知られている。特にMMP-2は歯髄から多く産生され、ゼラチナーゼの働きだけでなく、MMP-14など他のMMPsにより活性化される機能を有し注目されている。また線維芽細胞より産生され、抗炎症作用を持つアデノシンも注目されている。なかでもA2a受容体は炎症性サイトカイン刺激により、その発現が上昇すること、また炎症反応や創傷治癒過程に積極的に関与していることが報告されている。そこで本研究では、乳歯歯髄由来線維芽細胞において、LPSおよび炎症性サイトカイン(TNF-α, IL-1β)刺激による、線維芽細胞のアデノシン受容体発現、MMP産生能について検討した。 LPS、 TNF-αおよびIL-1βは、いずれもアデノシン受容体発現に影響を与えなかった。一方、MMP産生については、LPS、TNF-αおよびIL-1βいずれについても、MMP-2産生を有意に増強した。今回はさらにTNF-αによるMMP-2産生について焦点を絞り、PI3-K阻害剤を用いてその経路についても検討を行った。その結果TNF-αによるAKTのリン酸化がPI3-K阻害剤LY294002およびWortmanninにより抑制された。以上の結果から乳歯歯髄由来線維芽細胞においてTNF-α刺激によりPI3-Kを介してMMP-2が産生されることが明らかとなった。
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