昨年度は、短鎖脂肪酸の一つである酪酸が骨芽細胞、破骨細胞分化に及ぼす影響を調べ、骨芽細胞では細胞外マトリックス形成の促進、破骨細胞では細胞死を引き起こす事を発見した。また、歯周病原細菌の産生する短鎖脂肪酸が歯槽骨に作用するためには、短鎖脂肪酸が歯肉上皮バリアーを通過しなければならないと考え、短鎖脂肪酸の歯肉上皮に及ぼす影響も併せて調べたところ、細胞死を引き起こす事を発見した。これらのことから、歯周病原細菌の産生する短鎖脂肪酸の持つ病原性は、歯槽骨破壊と言うよりむしろ、歯肉上皮の破壊であると考えられた。そこで、本年度は短鎖脂肪酸が歯肉上皮細胞に引き起こす細胞死の種類を特定し、その予防に必要な情報を得るための研究を中心に行った。 まず、様々な短鎖脂肪酸を歯肉上皮株化細胞Ca9-22細胞に作用させ、SYTOX Greenを用いた細胞死アッセイを行ったところ、酪酸、プロピオン酸、酢酸、イソ酪酸、イソ吉草酸はそれぞれ、1、5、4010、5mM以上の濃度でコントロールに較べて有意に多くの歯肉上皮細胞の細胞死を引き起こしだ。また、酪酸はアポトーシスマーカーであるAnllexin Vの細胞表面への結合の増加、カスパーゼ3活性の上昇、bcl-2遺伝子発現の減少を引き起こしたが、カスパーゼ阻害剤Z-VAD-FMKは酪酸による細胞死を限定的にしか抑制しなかった。そこで、オートファジーを介する細胞死について調べたところ、酪酸はLC3-II分子の産生増加と細胞質でのオートファゴゾームへの集積を引き起こした。さらに、オートファジー抑制剤である3-methvladenineは酪酸誘導による歯肉上皮細胞の細胞死を抑制した。よって、酪酸は歯肉上皮細胞のアポトーシスとオートファジーを介する細胞死の両方を引き起こすことが示唆された。これらの細胞死を抑制することにより、歯周病予防法の開発ができる可能性がある。
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