本研究は、褥瘡発生プロセスには血流の変化以外に、加圧という機械的刺激に対する皮膚または筋肉の構成細胞の応答が関与するという仮説を検証することを目的としている。すなわち、コラーゲンゲル内3次元培養した皮膚線維芽細胞および筋管細胞を用いて、加圧に対する細胞応答を遺伝子またはタンパク質のレベルで検証するものである。本年度の研究では、免疫染色にてアポトーシスのシグナル伝達に関連するカスパーゼファミリーのうち、最も下位で作用するエフェクターのひとつであるカスパーゼ-3の陽性細胞が加圧刺激によって有意に増加することを明らかにした。また、法医解剖体から摘出した急性期褥瘡の染色も同様に、褥瘡発生部位にカスパーゼ-3陽性細胞を多く観察した。この結果は、加圧刺激によってTUNEL陽性細胞が増加するというこれまでの結果を裏付けるものである。これらのことは、褥瘡発生にはアポトーシスが関与していることと、このアポトーシスの発現には、加圧負荷された皮膚線維芽細胞の応答が関与している可能性を示す。 一方、3次元培養細胞を加圧負荷した場合の低酸素状態への細胞応答を考慮し、低酸素下での皮膚線維芽細胞の細胞応答を昨年度より確認している。その結果、本年度は多くのサイトカイン類に加えて、シクロオキシゲナーゼ(COX)-2の遺伝子も低酸素刺激によって発現が増加するが、MMP-9、-13に加えて熱ショックタンパク(HSP-70)の遺伝子発現は低酸素下においても増加しないことを認めた。このことは、MMP-9、-13、HSP-70の遺伝子は加圧という機械的刺激に特異的な応答によって発現する可能性が示された。
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