筋肉内注射は誤った手技で実施した場合、神経・血管損傷による麻痺の出現、および筋肉内注射のみの適応である薬液が皮下に注入された場合の組織傷害など、対象者にとって深刻な悪影響を及ぼす危険性がある。しかし、現在の看護学教科書には筋肉内注射部位における神経・血管の走行が明確に記載されているものが少なく、筋肉内注射技術の根拠は未だ不明瞭な部分があると考えられる。現在では殿部への筋肉内注射部位として「四分三分法の点」が多く使用されているが、「四分三分法の点」は皮下組織の厚みが厚く皮下組織傷害を引き起こしやすい部位であり、また上殿神経・動静脈損傷の危険性が高い部位であることが検証されている。これに比較し「クラークの点」は安全性の高い部位であることが示唆されている。本研究における意義は、筋肉内注射のもつ危険性を可能な限り減少させ、対象者にとって安全性の高い注射部位を確立させることである。 平成19年度の研究では、「クラークの点」の安全性について追究するために、前方殿部注射部位として知られる「ホッホシュテッターの部位」との比較検討を行った。解剖実習体11体18側の殿部において、2点の神経・血管の走行や皮下組織・筋の構造などを観察し、どちらが殿部筋肉内注射部位として適切な部位であるかを検討した。 「ホッホシュテッターの部位」は、「クラークの点」と比較して皮下組織の厚みが薄いため筋肉内に注射針を刺入しやすいが、皮下組織の直下に大腿筋膜張筋が分布している例があることから腱様組織に好発する筋拘縮症発症の危険性を考慮する必要があると考えられた。したがって現時点では、中殿筋に注射針を刺入しやすい「クラークの点」が適切な注射部位であると示唆された。今後は、中殿筋の前方筋腹の安全性についてさらに観察を行うとともに、正確に注射部位を特定する方法の確立に努めたい。
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