殿部筋肉内注射部位として選択される「クラークの点」の安全性について追究するために、前方殿部注射部位として知られる「ホッホシュテッターの部位」との比較検討を行った。解剖実習体10体20側の殿部において、注射部位の神経・血管の走行や皮下組織・筋の構造などを観察し、殿部筋肉内注射の適切な部位を検討した。 「ホッホシュテッターの部位」は、「クラークの点」と比較して皮下組織が薄いため筋肉内に注射針を刺入しやすいが、皮下組織の直下に大腿筋膜張筋が分布している例があることから腱様組割織に好発する筋拘縮症発症の危険性を考慮する必要があると考えられた。また、「ホッホシュテッターの部位」では上殿神経・動静脈前枝が密集しているため、神経・血管が疎である「クラークの点」が上殿神経・動静脈損傷の危険性が低いと考えられた。 また、日本において筋肉内注射部位として選択されている「クラークの点」、「ホッホシュテッターの部位」、「四分三分法の点」の特定方法の難易度を比較した。「四分三分法の点」は、施行者の手技によって特定部位が背側にばらつきやすく、坐骨神経や上殿神経・動静脈などの神経・血管損傷の危険性があると考えられた。また、特定までにかかたた所要時間が3部位の中で最も長く、正確に特定するためには患者の殿部の露出時間が長くなることが示唆された。「クラークの点」、「ホッホシュテッターの部位」は、「四分三分法の点」より腹側に位置するが、指標となる部位の触知が難しいことが特定上の問題点であると考えられた。今後は、施行者間のばらつきが少なく、より安全で簡便に特定できる方法を考案していくことが検討課題である。
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