ドイツで心臓移植を待機する成人患者とその家族2組に面接調査を行った。面接内容は、日本での移植待機中の体験、および、海外渡航の準備中の体験、海外での移植待機中の体験等とし、患者・家族の苦悩に関連するテーマに沿って類似した内容ごとに分類し、解釈・分析を行った。 分析の結果、研究参加者は、【国内では移植が間に合わない】【心臓移植の選択肢は海外しかない】などの理由から、やむを得ず海外渡航心臓移植を決意していた。しかし、決意をした後にも【渡航国の待機者の順番に割り込んでしまう】ことにうしろめたさを感じ、渡航後にも【日本で移植ができたらいいのに】と願っていた。また、参加者は、【海外渡航に多額の費用がかかる】【一般家庭では渡航移植費用の工面は無理】【募金に頼るしかない】という現実に直面し、【募金活動に関わる誹謗中傷やいやがらせ】に心を痛め、募金により海外渡航が実現した後もなお、【募金で生活せざるを得ないうしろめたさ】を感じていた。さらに、渡航国での実生活・療養生活においては、参加者全員が、言葉の壁、大胆な食事、日本での治療方針との相違など【異文化環境での生活に対する苦労】を感じていた。 渡航国では、必然的に日本人患者・家族同士の交流が強まる。患者の心機能が悪く、移植待機患者リストの上位にあげられている患者・家族(渡航して約1ヶ月)は、渡航してから約1年が経過しようとするもう1組の患者・家族に対して、【ここ(渡航国)に到着した順番ではなく重傷度によって移植の順番が決まってしまう】という申し訳なさを語っていた。 H19年度に行った心臓移植レシピエントおよび家族に対する実態調査において、回答者からは「日本での移植医療の一般化・ドナーの増加」「必要な医療を受けるのにお金がかかりすぎる」「国内での心臓移植が当たり前の世の中に」「国内での移植が無理なら、渡航に対して国が支援を」などの意見・要望が挙げられていた。H20年度の面接で明らかになった、海外での心臓移植を待機する患者・家族の苦悩から鑑みても、その意見・要望は当然のことと思われる。また、日本臓器移植ネットワークの調査では臓器移植意思表示カードを持っていても、それが生かしてもらえない日本の医療現場の様子が明らかになっている。以上のことから、医療現場に身を置く看護師は、移植を待機する上記のような患者・家族の苦悩を理解し、臓器提供の意思がある患者に出会った場合には、そのことを移植コーディネータや医師等、多くの人に伝えていく責務があることが示唆された。
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