平成20年度は、慢性疾患を持つ患者の行動変容を促進するための行動理論についての交献研究を実施した。行動理論は多数存在するが、今回は健康日本21の「健康づくりのための運動指針2006」にも導入され、様々な行動変容への介入に活用され始めているTranstheoreticalModel:TTM(行動変容ステージモデル)の糖尿病患者への応用に着目して文献研究を実施した。 TTMでは、行動変容を時間の経過とともに現れる現象セあると捉え、その変化を連続する5つのステージ:無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期に分類している。また、有動変容には3つの媒介変数:変化のプロセス、意思決定バランス、セルフエフィカシーが含まれると考えられている。変容プロセスとは、変容しようとする行動を修正するのに用いる方策を指しており、認知的プロセスと行動的プロセスに分けられる。意思決定バランスは、変化から生じる欠点と利点の割合を示している。糖尿病患者に対してTTMを応用した介入を実施することで、従来の指導と比較して、健康的な食事、SMBG、禁煙、身体活動などの行動変容がより生じやすく、結果的にHbAlc、血圧、フィブリノゲン、コレステロールの低下などの変化が確認されたとの報告が複数存在する。我が国においても身体活動、食事療法の継続をテーマとした介入研究が実施され、その効果が確認されている。 TTMを用いた研究の多くは量的研究であり、変化のプロセスや意思決定バランスについて質的に研究したものは非常に限られている。日本で実施されているTTM研究においても、欧米で開発された尺度を基にして評価したものが多い。今後、TTMを活用した介入が我が国においても広く行われると考えられるが、TTMは文化的な差異のある我が国においても、妥当であるかを質的に検討した調査は存在しておらず、今後その妥当性、医療従事者による介入方法について明確にするための研究の必要性が考えられた。
|