本研究の目的は、A市消防本部所属の消防職員877名を対象に、惨事ストレスに対する精神健康度とソーシャルスキルの現状及び因果関係を明らかにすることである。本研究では心理尺度に欠損値のない男性職員370名を分析対象とした。分析対象者を階級別に『隊員』『小隊長クラス』『中・大隊長クラス』の3群に分類し、統計学的分析を実施した(一元配置分散分析、カイ2乗検定、重回帰分析または階層的重回帰分析)。統計ソフトにはSPSS(for Windows Ver. 16)を用いた。 【結果】 分析対象者の平均年齢は40.5歳、平均勤務年数は20.1年であった。A市消防本部の精神的不調者の割合は43.0%、PTSDハイリスク者の割合は18.9%であり、精神健康度は階級別で有意差はなかった。また、重回帰分析結果から、全階級で自己表現を抑制する人ほど精神健康度は不調であった。さらに、『隊員』 : 自己表現する人ほど「職場の中で」や「その他(家族や職場以外)の中で」の情緒的支援を高く認知でき、精神神経症状や外傷性ストレス症状を解消・緩和させていた。『小隊長クラス』 : 精神神経症状については「その他(家族や職場以外)の中で」の情緒的支援を認知し、外傷性ストレス症状については上司の人間尊重の態度を認知していたことが影響していた。また、自己表現する人ほど情緒的支援や上司の人間尊重の態度を高く認知していた。『中・大隊長クラス』 : 「家族の中で」の情緒的支援認知を高く得られている人ほど、外傷性ストレス症状は解消・緩和されていた。 【考察】 A市消防本部に所属する消防職員は、何らかのメンタルヘルス問題を抱えていることが示唆された。また、重回帰分析の結果、精神健康度に影響を及ぼすストレス媒介プロセス要因には階級別の違いがあった。これらの結果から、惨事ストレス対策には階級別の特徴を考慮した研修の必要性が示唆された。
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