研究概要 |
尿失禁があることは, 心理社会的問題を引き起こすことが明らかとなっており, 尿失禁改善・予防への取り組みはQOL(生活の質)維持にきわめて重要である。高齢者において尿失禁は増加するが, それは最も急激な加齢変化を示す筋肉, 特に下肢の筋肉の虚弱化が関連しているのではないかと考え実態調査を行った。平成19年4月〜10月の期間に, 地域在住の65歳以上の女性86名に対し, 尿失禁の自覚の有無と程度, 尿失禁発症のリスク因子(年齢, 出産回数, 便秘, 既往など), 尿失禁があることでのQOLへの影響などについてのアンケート調査と, 体組成計による筋肉量の測定と評価(全身, 右腕, 左腕, 右足, 左足, 体幹), 握力や開眼片足立ち, ファンクショナルリーチ(以下FR), Timed Up and Go(以下TUG), 長座位体前屈などの身体運動機能測定を行った。平成21年1月から3月の間に調査結果を論文としてまとめ, 投稿した。結果は, 尿失禁と開眼片足立ち, FR, TUG, 長座位体前屈の成績と関連が見られた。また, 筋肉量では, 体幹筋肉量と尿失禁に関連が見られたが, 下肢筋肉量の減少と尿失禁に関連があるという結果は得られなかった。身体機能と筋肉量の分析から, 尿失禁と体幹筋肉量, バランス機能, 柔軟性, 歩行能力に関連があることが示唆された。しかし, 対象者は虚弱者や著しくQOLを阻害されるような状態の者は含まれていない可能性があること, 下肢部位別の筋肉量及び下肢筋力と尿失禁の客観的評価のデータ収集及び分析が行えておらず, 尿失禁と筋肉量の関係をより明確に把握するためにはより詳細な調査による検証が必要である。今後は偏りのない体幹筋肉, バランス機能や歩行能力の維持, 向上を日指した運動プログラムなどの介入プログラムを実施し, 今回得られた結果を検証することが必要である。
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