前年度の研究では、精巣特異的GPIアンカー型精子セリンプロテアーゼPRSS21欠損精子の体外での受精能低下が子宮内分泌液の暴露によって回復することを示した。また、組換え型PRSS21タンパク質が透明帯タンパク質を限定的に分解することを確認した。本年度は、受精能回復に関わる子宮内分泌液内の因子の機能解析および同定を試みた。PRSS21欠損精子は卵子透明帯上での先体反応および卵子透明帯への結合能が低下することから、子宮内分泌液による回復を試みた。先体反応後の精子へ特異的に結合するIZUMO1抗体を用いて検証したところ、子宮内分泌液を処理したPRSS21欠損精子では先体反応能に目立った回復は認められなかったものの、結合能においては有意に増加していた。次に、ビオチン化標識した子宮内タンパク質を用いて精子への結合実験を行ったところ、PRSS21欠損精子においても野生型精子と同様に子宮内タンパク質の結合が認められた。さらにこの子宮内タンパク質には透明帯タンパク質ZP3の分解活性が認められたことからPRSS21欠損精子ではPRSS21に代わって子宮内プロテアーゼが透明帯通過に寄与している可能性を示唆した。さらに、HPLCを用い精製を行ったところ、この因子は化学的に非常に安定で、極性も低く紫外線に吸収波長を持たない性質を示した。また、ラット子宮内にも同様の活性をもっ画分が認められたことから、子宮内の受精能促進には種を超えたユビキタスな機構が示唆される。 以上の結果からPRSS21欠損精子の子宮内分泌液での受精能回復は、先体反応能には依存していないこと。また、生体内では子宮内因子は複数存在しそれぞれの活性によって受精が成し遂げられていることが明らかになった。今後はこれら因子の同定・解析を進めることで、哺乳類における生体内での受精現象の解明に繋げる。
|