研究概要 |
本実験は外傷や腫瘍切除などによる末梢神経欠損に対する外科治療において、自家神経移植の代用に再生促進型複合架橋用チューブの開発を目的とした。 キトサンは生体親和性がよく、治癒促進力と抗菌性を備える生体吸収性材料である。キトサン溶液を静電紡糸法で繊維多孔体シートを作製し、五〜六層に巻いて内径1.5mm外径2.0mm長さ15mmのチューブに成形した。β-TCP(βリン酸3カルシウム)が生体親和性と吸収性を備えるセラミック系材料である。β-TCP粉体を噴霧乾燥法で径20〜30μmの球状微粒子に成形し、400℃で2kV直流電界を2時間印加すると電気分極化され、粒子単位が安定な静電界を持つようになる。この分極状態が熱脱分極測定法で確認された。 分極β-TCP微粒子をキトサンチューブの外層に固定し、ラットの坐骨神経欠損部に移植した。対照群として、未分極群、未固定群、自家神経移植群も同時に実施した。術後1が月で採集し中央横断面において組織切片を切り、IIE染色、免疫蛍光染色(anti S100,anti Neurofilament)を用いて再生組織を評価し、術後3が月で神経機能、電位伝導、軸索形態を定量評価した。分極β-TCP固定化キトサンチューブが神経再生の早期段階に血行再開、軸索進展と散布を促進した故に成熟期の神経機能と電位伝導能が大幅に改善され、組織評価におき自家神経移埴に相当する結果が得られた。 分極β-TCP固定化キトサンチューブが自家神経の犠牲なく、末梢神経欠損の治療に有望な候補だと考える。
|