1.生活習慣病の一次予防には、より若い時期から食習慣などの生活習慣に気を配る予防対策が重要である。自律神経の機能低下は将来的な生活習慣病発症の重要な徴候の一つであり、それに関わる各種遺伝要因、環境要因を解明する事は生活習慣病の発症の予防対策における重要な判断材料になると考えられる。 2.若年健常者(大学生)約100名をリクルートした(本学の倫理委員会の承認の下、文書と口頭による十分な説明の後、自由意志に基づく文書による同意を得ている)。身長や体重など基礎的な身体測定の後、自律神経機能(心拍変動解析)、胃運動機能(胃電図)、末梢血管機能(手掌の冷水負荷試験)を測定した。さらに食習慣や生活習慣を食物摂取頻度調査票および生活習慣調査票により調査した。ゲノムDNAは口腔細胞より抽出し、遺伝子解析に用いた。 3.脱共役タンパク質3(UCP3)遺伝子の-55C>T多型との関連解析の結果、Tアリル保有者でCC保有者と比較してBMIが有意に低く、平均血圧も低い傾向を示した。また、生活習慣病の家族歴も有意に低かった。自律神経機能への影響を調べた結果、Tアリル保有者ではCC保有者よりも立位時の交感神経亢進が抑えられていることが明らかとなった。このことから、UCP3-55C>T多型は若年健常時よりすでに、自律神経機能に差異をもたらしており、BMIの差となってその影響が顕性化したことが示唆された。BMIへの影響は他の複数の先行研究の知見と一致するものであったが、自律神経機能への影響については今回初めて示された。 4.本研究の知見は生活習慣病の遺伝要因の影響を疾患を発症する前に検出できた一例であり、このようなエビデンスの蓄積が将来のテーラーメード医療の実現に貢献するものと考えられる。来年度はさらに多数の遺伝要因との関連解析に加え、食習慣や生活習慣をパラメーターに加え、より詳細な調査を実施する予定である。
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